Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
[リスト] [新記事] [ワード検索]

   テーマ:ジョイ猫物語 第二章(12)

メイは続ける。
『「私は恩あるご主人に迷惑をかけられない、と昨夜決心しました。むしろ、前の家に戻って、虐待で殺される方を選んだのです。ところが、向こうの家に着く前に夜空に赤い炎が見えたので引き返したら、この災難でした」』
話し終えたメイは、ジョイに一礼の「ニャーニー!」
を、残して去り婦人の腕の中に飛び込んだ。
ジョイの全身に朝陽の昇る直前の寒さと深い後悔ゆえの戦慄(せんりつ)が走る。
 朝陽が昇るまで一睡もせずにジョイを待っていたサムは、ジョイの無事の姿に灰色の目を細めて大喜びである。心配の余り乱れていた白髪交じりの茶色の髪を、元気にかき上げた。しかし、我が猫ジョイの歩き方と輝きの失せたグリーンの眼を見て異変に気づく。それでも何も問うことはせずに
「ジョイや、ゆっくりお休み」
と、いつも通りの声がけをして、寝室へ向かった。
主人に向って尻尾をゆるゆると振る元気もないジョイは、眠ることも出来ずソファの上で、次第に明るさを増していく初冬の空を眺めていた。そろそろ、舞い散る葉っぱもなくなり白樺の樹だけが朝陽にそっと挨拶をしているかのように見える。
『愛って何だろう、勇気って何だろう。本当の愛、本当の勇気とは?』
ジョイの頭の中を、帰り道からこの考えだけが空回りしていた。無限のループに入り込んだように、この疑問から脱け出せずにいる。やがて深く考えているつもりが、眠り込んでしまう。
「ん!」と、眼が覚めると午後になっていて、そばには微笑んでいるサムの顔がある。
「目覚めたね、ジョイ。愛と勇気の話がいいかな?それとも食事がいいかな?」。
ジョイが立ち上がり金の首輪をキラリと光らせたのを見て、食事よりお話を選んだことが分り、愛情深いサムは膝の上にジョイを呼ぶ。そこへ
「ニャーニー!ニャーゴー!」
が、聞こえてくる。



- Web Forum -