Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
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   テーマ:ジョイ猫物語 第二章(10)

祈りが聞き届けられたのであろうか、ピースがラファエルをくわえて赤いスクリーンから抜け出したヒーローのように炎の中から現われた。
「わあー!」
と、歓声が上がる。しかし、ラファエルを置くとすぐ燃える家の中に引き返す。
ピースを目がけてホースから援助の水がやわらかく掛けられる。ジョイを初め皆は、次に現われる白いローズメイを期待した。飼い主らしき婦人は、涙に曇る目を拭い拭い大きく見開いた赤く腫れあがった瞳に、やがて写る我が猫を待ち望んだ。固唾(かたず)を呑んで群集が待つ中、遂に現われたピース!
しかし、ピースの口にはローズメイの姿はなかった。
ざわつく人々そして猫達。気が狂わんばかりに全身を震わせて泣き崩れる婦人。
しかし・・・婦人が倒れ込むように地面に伏せた途端!その声は歓喜に変わる。
「おお〜メイ!生きていてくれたのね。おおー神よ、感謝します!家はすぐ建て直せるけれど、あなたの命はそうはいかないの。生きていてくれてありがとう!」。
何ということだろう。メイは、家の中には居なかったのだ。干草の匂いの付いたカールの耳を婦人の泣き顔に押し付けて「ミィーミィー!」と、鳴く。
ジョイとバルナバそしてラファエルは、驚きの余り口が利けなくなってしまう。プリンス・ラファエルは、焦げた毛の身体を忘れて男泣きを始める。バルナバがそっとジョイに耳打ちをした。
『「プリンス・ラファはね。なにしろ、密かに恋するローズメイの無事だからね。泣いちゃうさ」』
初めて知ったジョイ。
『そうだったのか・・・』。
ラファエルの、無茶と思えるほどの勇気ある行動の全てが納得できたジョイ。ピースの方を眺めると、人々の群集に取り囲まれて撫ぜて貰っている。またしても、英雄ピースなのだ。



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