Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
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   テーマ:ジョイ猫物語 第四章(2)

その晩、ジョイはサムの死以来、悲しみの中にも一かけらの希望を感じて、初めての安らかな眠りに入った。
 ここの屋敷内での生活は、これまでのジョイの行動パターンを大きく変えていく。
いつも飼い主家族の賑やかな会話が聞こえ、時々それに入り混じってジョイの名を呼び、行動を促す。慣れないジョイは、時折聞き逃すことも当然あり、戸惑う方が多い。町の人々の出入りも多く、静寂とは縁遠い環境だ。
これまで、どちらかと言えば遁世的であった老人サムとひっそり暮らしてきたジョイには、毎日が珍しく新しい経験だ。窓の外を眺めれば、今は雪景色が美しく、眩しいほどに太陽が反射してキラキラ輝く。地平線が見える広々とした地所に建つ白い建物のこの屋敷は、冷たくない雪の中に溶け込んでいるようであった。建物そのものが自然の一部となっている。そして外の空気がおいしいばかりではなく、家の中が人間の醸し出す明るく楽しい空気さえもがおいしいのである。
妹アニーは幸せに暮らしてきたのだ、とジョイは日毎に確認できて喜んだ。
 ある日、リズの若い女友達メラニーが訪ねてきた。ジョイは、そのメラニー、つやの良い黒髪の女性の腕に抱かれている白い猫を見て驚きの余り眼が釘付けになってしまった。茫然自失(ぼうぜんじしつ)のジョイは自分の居場所を忘れてしまい、思わずメラニーの足元に絡まり始める。そして、腕の中にいる猫に向かって
『「ラブ!ラブ!ここで君と会えるなんて、嬉しいよ」』
と、大喜びする。
何とメラニーの腕の中には真っ白いふわふわ毛のラブそっくりの雌猫がいた。我を忘れて喜ぶジョイ。腕の中の猫が彼を上から眺めて、気の毒そうに答える。
『「まあ、私をラブと間違えたのね。私はモーリーですよ」』
途端に、ジョイは我に返り、恥ずかしそうに踝(くびす)を返して戻る。リズがその様子を観察していた。微笑みながら語りだした。
「ねえ、メラニー、ジョイはあなたの猫モーリーとそっくりの猫を知っていて、間違えたのね。その猫は、おそらくジョイの愛する存在かもね」
年若いメラニーとリズの二人が笑い出した。ジョイは驚きと怖れをなす。



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