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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第二章(11)
火災は、ほぼ全焼に近かったのだが・・・やがて鎮火し真っ赤な火焔の生き物は死に絶えた。
鎮火を見届けてから、ジョイの視線は飼い主の婦人とローズメイへ向いた。バルナバとラファエルが互いにからかい合って帰る姿と見比べながら、
『婦人とメイに対して、自分は大きな間違いをするところだった・・・』
と、心が打たれる。焦げくささの中、呆然と立ったままみつめるジョイに気が付いたローズメイが、うつむきながら近づいて来る。対応に迷いながら、ジョイは声をかけた。
『「大変だったけど、無事でよかったね、メイ」』
『「ありがとう。でも、なぜ家にいなかったのか?と、たずねないのですか?」』
と、視線を背けて語るメイ。何も答えないジョイに彼女は堰(せき)を切ったように、しかし遠慮がちに話し出した。
『「私は、昨夜遅く・・・以前の飼い主の家に向かい出かけました。なぜだと思いますか?」』
『「さあ〜」』
と、気まずそうに答えるジョイ。
『「先日の集まりで、私が虐待されているので今の飼い主から救出するという決定がなされたと、お隣から聞きました。私が、いつも干草のごみを体につけているからだと。でも、でも、私は一度だってリーダー猫たちから、その事情について尋ねられたことはありません。実は・・・私は、以前の飼い主からの虐待で心の病気を患っています。小さい時、虐げられて逃げていた場所が、刈り入れ小屋の干草の中でした。そこだけが安心して眠れる所だったのです。今の飼い主は、そんな私に気が付いて無理やり引き取ってくださったのです。今は、大事にされて暮らしていますが・・過去のトラウマがうずき、不安から干草を求めるのです。それで、私のベッドには、今の優しいご主人の配慮で干草が積まれています。飼い主は立派な部屋が干草で散らかっているにもかかわらず、私のために・・・」』
飼い主への感謝にむせぶメイは、それ以上話せなくなったが、気持ちを奮い起こしてまた続ける。
『「それなのに、あなた方リーダー達は、私のためとはいえ・・・親切きわまりない私のご主人を裁いて、私を引き離そうとしたのです」』。
ジョイは胸が痛み、何も答えられなくなっていた。



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