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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第四章(1)
大四章「虹の一族との日々」
 
「さあ、ジョイ!着いたわよ。あなたの妹のアニーとも会えるのよ。うちの家族ともよろしくね」
ジョイは躊躇することなく、ローズの言われるままに新しい棲家に入った。
迎えたのは、ローズの夫で気の良いセバスチャンとその娘の若い婦人エリザベス、そしてジョイの妹アニーである。
アニーとは、生後一ヶ月頃に別れ別れになっていた。泣き虫で甘えん坊のアニーという記憶しかないジョイである。大人になった彼女を見てジョイは嬉しさの余り「ミャ〜」と、声を発した。
アニーはというと、泣き虫の面影もなく、甘えん坊どころか確りした光のある青い淑女として自分の兄を迎えた。
「ジョイや、暖炉のそばにおいでー」
と、招いたのはローズとセバスチャンの一人娘エリザベス、通称リズ・オマールである。二十代後半のリズは母親とは似ていない細めの身体と小麦色の肌をしていた。髪と眼の色を除けば、横顔が父セバスチャンにそっくりの端正な容貌である。美しい顔貌に加えて母親譲りの鳶色の髪と瞳は少しだけ亜麻色がかり明るさと健やかさを物語っている。
しかし、何にもまして彼女には人の想像を超える不思議な力がある。そのせいか、瞳の奥にはそこはかとない輝きを放つ光が灯っている。まるで蜂蜜色の枯葉の間から一筋の木漏れ日が差し込むときのような目であった。その目が優しい同情心に満ちてジョイをみつめる。
「ジョイ、辛いでしょうに、よく来てくれたわね。偉いねー頑張ってるのね。ねえ、アニー!お兄さんに会えて嬉しいでしょ?」
と、猫達に感情移入された癒しの言葉を述べる。
ジョイの妹アニーはジョイに丁寧に話し出す。
『「お兄様、この度は大変でしたね。しばらく私と一緒にこの屋敷で住む事になりそうです。よろしくね。このあたりの猫仲間は少ないけど・・きっとお兄様の良い友達になるわ。ミャ〜」』
『「ありがとう、アニー!君はずいぶんと大人になったね。驚いたよ」』
『「そうかしら。お兄様こそ、立派よ。私が大人に見えるとしたら・・・それは、何でも指導してくれる年長の友人のおかげだわ。そのうちに紹介するわね」』
この二匹の会話を、雰囲気だけですべて読み取るという超能力を持つリズは、兄妹の猫を交互に見ながら優しく微笑む。これが彼女の特別な賜物なのだ。
動物の心を読むと言う彼女の能力は、公にはされていないが二十年前の五歳のときに両親によって確認され、今に至っていた。しかし、ジョイはまだ気が付いてはいなかった。



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