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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第三章(17)
『「僕はご主人サムの帰りを待つんだ。どんなに寒くてもかまわない!」』
と、ジョイは叫ぶ。しかし、ローズの頑丈な腕の中からは抜け出せそうにない。それでも、ジョイは抵抗した。
この屋敷にとどまろうとするジョイに気が付いたローズは、それまで口にするのをためらっていた言葉を遂に語ってしまう。
「サム兄さんはね・・・あなたの主人は、もう、どんなに待ってもここには戻ってこないの」
そして床に崩れ落ちるように屈み、ジョイのブルーの毛を涙で濡らす。何度も泣いたであろう、その髪の毛と同じ栗色の眼は、既に赤く腫れ上がっていたのであるが・・・今また、部屋の静けさを破って泣きじゃくる。
『戻ってこないって?そんな事があるもんか。ローズは自分の兄さんを、信じていないんだ』
と、ジョイは考え、ローズの腕の中でまたもやもがいた。従わないジョイに、たまりかねたローズは自分の腕の中の彼に向かって泣きながら叫ぶ。
「ジョイ!いいこと。聞きなさい。サム兄さんはねーお前の主人はね、死んだの!天国へ行ったの。分ってよ、ジョイ!お願い!」
そして、さらに泣き声を増したのである。
驚いたジョイは、頭の中が混乱する。
『死んだ?ご主人が知らない国へ行った?死んだ・・・どういうこと?もうここに戻らないって?そんなことがあるのだろうか。僕を残してどこにも行くはずなんかない。そうだ。大好きなご主人に、もう会えないなんて僕は信じないぞ』
しかし、ジョイはローズに身を任せた。
力が抜けて、三日間の寒さと緊張全てから解き放たれたからであろう、気を失ってしまったのである。



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