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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第三章(16)
 そして、サムが運ばれて三日後の昼過ぎ、車が庭にとまり、ドアが閉じられる音でハッ!とする。やがて玄関の開く音。二階の窓辺の陽射しを浴びながら力なく横たわっていたジョイは、一瞬にして蘇った勇者のようになる。
『ご主人だ!やっぱり帰ってきたんだ。よし!今日は食事の後で「愛と勇気のお話」を聞くんだ』
と、一目散にしなやかな体で玄関へ降りる。ジョイのロシアンスマイルが久々に戻った。
しかし、そこに見たのは愛するサムではなく、サムの妹ローズの姿ただ一人であった。
黒っぽいコートをはおった大柄のローズのふくよかで明るい白い顔には、似合わないほどの悲愴がただよっている。だが、ジョイの姿を見るや否や和らいだ。
「まあ、ジョイ!しばらく見ないうちに、あのオチビちゃんが・・・大きく立派になったのねー。お腹が空いたでしょ?ごめんね、遅くなってしまって」
ローズは黒いコート姿のまま、頑丈な腕でジョイを抱き上げ涙を浮かべて頬擦りする。
「ジョイ、頑張って兄さんのために・・・お隣へ行って助けを呼んでくれたんですってね。本当にありがとうね。あなたは小さな時から賢かったものね。兄さんにとって、あなたは可愛い子供だったのよね。さあ、お食事にしようね」
慈しみ深く話しながらジョイを床に置き、コートを脱ごうとして、初めて屋敷の寒さに気が付く。それでまたコートの袖に腕を通して、急いでジョイの食事の準備をはじめる。
食事をしているジョイを眺めながら話しは続く。
「ジョイ、これから私の家へ行くのよ。思い出がいっぱい詰まったこの屋敷を出て行くのは、あなたには辛いかもしれないけれど仕方がないの。また、神の思し召しならここへ戻る事もあるかもしれないけど、しばらくは、私の家で暮らそうね。あなたの妹のアニーを覚えている?あなたにそっくりの可愛い猫ちゃんよ。一緒に仲良く暮らそうね」。
そして、黙って何かを考えているローズであった。
やがて、再びジョイを抱き上げた。
「さあ、この部屋は寒いから早く出発しましょうね」
と、玄関のドアノブに手をかけたその時、ジョイが腕の中でもがく。



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