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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第三章(15)
『どこへ行ってしまうのだろう』
ジョイの中では、怖れと孤独感が入り乱れていた。あの優しく愛情深いご主人が突然倒れて、眠ったまま運び去られた。
『あんなに苦しそうだったけど、僕が戻った時にはぐっすり眠っていた。どうして部屋のベッドに寝かせてはくれなかったのだろう?どこへ連れて行ったのだろう?』
しかし、答えが出て来ない。やがてジョイは、サムのいつもの穏やかな顔を思い浮かべ『すぐ帰ってくるさ』と、待つことにした。
 しかし、翌日もサムの声は聞こえず姿も現われなかった。静まり返った屋敷で、木枯らしに揺れる梢が窓に擦れる音を聞いては、玄関へ迎えに出てみる。物音を聞くたびに玄関へ走るジョイは、むなしく戻ることだけを繰り返す。
それでも『愛は信じるんだ!』と、自らに言い聞かせて奮い立たせていた。
 次の日はクリスマス・イヴで、街は賑わい美しく輝いている。クリスマスソングが遠くから流れて来る。夜の街は煌き、人々の笑顔はこれ以上ないというほどに優しく・・・そして聖夜を迎える。
しかし、冷え切った屋敷内に一匹だけでとどまっているジョイには、ただの騒音でしかなかった。ジョイはトレーに残っていた食事も食べつくしてしまい空腹のままであった。暖炉の火もなく寒い部屋で震えながら待ち続けた。寒さと空腹と寂しさに震えるクリスマス・イヴになった。水やりが途絶えたシクラメンは、まさに枯れいこうとしている。ジョイは大好きなサムの椅子に横たわり、その花達の衰退をぼんやりと眺めながら
『花は枯れるかも知れない。それでも、僕はご主人サムが大好きだ。僕のこの気持ちは枯れない。愛は信じるんだ・・・必ず、僕のところに戻ってくる』
と、何度も呟(つぶ)いて、自分を励まして今か今かと待つ。
寒さの中、ジョイの見る夢はサムがにこやかに目を細めて『ジョイや〜!今、帰ったよー!』と、玄関で茶色のコートを脱ぐ姿ばかりである。



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