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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第三章(13)
 冬の夕暮れは、急いでやってくる。ジョイが突然の電話のベルの音で目覚めた。サムを見ると、電話に駆け寄り受話器を外しながら、
「きっと、妹のローズだよ、ジョイ!」
と、愛する猫へ微笑みかける。
毎年、クリスマスが近づくと、けたたましく電話が鳴る。ただひとりの年の離れた妹ローズは、兄が猫と共にクリスマスを寂しく過ごすのを気遣って招待のために電話をかけてくる。
遠い田舎町に住むサムの妹ローズの大きな声は、受話器を持たないジョイにまで聞こえる。
「兄さん、だめですよ。また今年も来ないなんて。私たちがどんなに兄さんが来てくれることを、心待ちにしているかを分って貰いたいわ」
「いや、しかしねー、ローズ。君の家までは遠いのだよ」
「だから、今年は夫のセバスチャンが車で兄さんとジョイを迎えに行きますから、必ず来てくださいよ」
「ああ、そうかい。それなら助かるから・・・ウッ!ウーッ!ウーン!」
サムの右手から受話器が滑った。ジョイが右手で胸を押さえて苦しそうに身を横たえていく主人の側にすばやく駆け寄る。受話器の向こうでは驚きの余りに、パニック状態のローズの声がする。
「兄さん!兄さん!どうしたの?返事して!えっ!待って、待って落ち着いて!兄さーん!」
ジョイは、目の前で苦痛にもがく飼い主の顔をしっかり見つめて、耳を側立てサムの指示する声を待ってみる。
しかし、何の言葉も聞けない。ジョイは焦る。どうすればいいのだろう!電話の向こうのローズの泣き声が、床の上に落ちた受話器から響いている。
ジョイのドグリーンの眼が光り、身を翻して玄関へ突進する。ジョイは冬の早い夕闇の外へ駆け出し、隣家の庭へ繋がっている秘密の出入り口の小さな塀の穴を潜り抜ける。
そこは、ピースのいる庭。ピースは突然目の前に現われたジョイに驚くが、何か大変なことが起きたのだと本能的に察した。巨体を急いで起こし、真剣な眼差しをジョイに向ける。
『「どうしたんだい?ジョイ!何が起きたんだ?」』
『「お願いだよ、ピース!急いで君の飼い主たちを呼んでくれ!サムが倒れたんだ!」』
ピースは返事をする時間を惜しみ、飼い主の家族が食事をしているダイニング近くへ庭を猛突進し、外から
「ワンッ! ワンッ!」
と、あらん限りの力で吠え立てた。



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