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一 括 講 読

テーマ:ジョイ猫物語 第三章(5)
バルナバはジョイに懇願を始める。
『「頼むよジョイ!何とか言ってくれよ。どうだったんだい?あの日の火事現場のことを忘れたわけじゃないだろう?」』
ジョイは黙って、窓越しに降る雪の織り成す白いカーテンを眺めた。先日、寒さをこらえて雪をまじまじと観察した時のことを思い出していた。離れて眺めれば白い冷たい塊だけど、その一片一片の小さな結晶の形は全部が違っていたのに驚いたのだった。
バルナバの方は、じっと何かを考えているジョイをみつめて言葉を待つ。
ジョイは視線を部屋に戻し半時ほど前に、サムにつぶやかれたシクラメンへ向けた。元気がなくなってきていたが、昨日も今日も同じそのものの花に違いない。透き通るような淡いピンク色に濃いめの赤が縁をそっと染めている洒落(しゃれ)た花色も変わっていなかった。
ジョイのブルーに輝く背中に暖炉の炎が映り、ゆらゆらと揺れている。やがて、ジョイの眼がきらっと光り、ロシアンスマイルの口が開く。
『「バルナバ、僕にも君にもラファの真実は、何も分らないんだ」』
『「何を言い出すんだい、ジョイ!君なら、ラファが放火犯じゃないと証言して救えるんだぜ!」』
と、焦るバルナバ。しかし、ジョイは続ける。
『「でも、やっぱり・・・常に真実は本人だけにあるんだよ。ラファが放火を否定せず認めもせず、君に沈黙したのには、深い事情があるに違いないんだ。おそらく、ラファ自身は過去の前科や今回の件についても、アームが流している噂を耳にしていると思う。それでも沈黙しているんだ。なのに、親友の僕達にも言えない事情の何かを、僕達がさぐり当てる必要があるだろうか。バルナバ!僕達はラファを、ただ信じよう。何があっても、今までと同じ友情さ。君と僕とラファそのものは、何も違わないんだよ」』
『「ジョイ、君は友達が逆境にいるのに、何もしないで見てるというのかい?」』
『「そうだよ。ただ信じるんだ。あとは何も変えないんだ」』
ジョイは毅然(きぜん)として語り終えて、バルナバの感情を征服する。
『「オーケー、わかったよ、ジョイ。いや何も分らないけど、そうするよ」』
『「ありがとうバルナバ。君はやっぱり愛する猫だよ」』
と、微笑むジョイに、ピエロの異名を取るバルナバが、すかさず
『「いえいえ、愛する猫は僕じゃないだろう、ジョイ。愛する猫は、文字通りラブじゃないの?」』
と、笑い出す。



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