テーマ:ジョイ猫物語 第三章(3)
後ろの椅子で読書をしながら聞いているサムには、若い二匹の猫がなごやかな語らいを楽しんでいるものと思えた。しかし、二匹の間では、真剣なバルナバの説明が始まっていた。 話はこうである。 昨日、バルナバは社交的な猫仲間の、愛称トミーと同じ車に乗り合わせた。彼らの飼い主同士が仲良しで、度々そうした機会があるのだという。共に後部座席で、猫同士でいつもどおりの会話がなされた。社交的なトミーは、仲間との交際も多く、話題は豊富だ。 やがて、話題はローズメイ宅の火災事件になった。トミーが気の毒そうに言い出した話によって、バルナバは大きなショックを受けたという。 何と、メイ宅の出火原因は、放火ではないかという噂があり、その犯人はラファエルだ!と、言うのである。 『「そんな馬鹿な!ラファは、メイを助けようとして命がけで火の中にまで飛び込んだんだぜ」』 と、語るバルナバに対して、トミー自身が聴いたという噂は、さらに胸が痛むものであった。 トミーは憂いながら、気の毒そうに言った。 『「ラファには、実は自宅への放火の前科があるそうなんだよ。前の飼い主はそれで焼死したらしいぜ」』 バルナバは、しばらく言葉が出なくなってしまったが、やがて自分を奮い起こして尋ねた。 『「その話は、誰から聞いたんだい?」』。 『「君も知ってるパームさ。彼は猫社会における個人情報のエキスパートだろう?」』。 『「彼か。あの口軽のパームなら言いそうだな」』 と憤り、思わず口走ったバルナバだった。 ここまでの、説明をじっと聴いていたジョイが珍しく低い声で鳴く。悲しそうに押し殺したサイレントボイスは猫の鳴き声ではなく、 「ウーウゥ・・・」と、言ううめきであった。
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